思考のままに

劣等感を糧に頑張ってきたといえる。
僕は劣等感の塊だ。いつもびくびくしている。
周りが知っていて知らないことばかりだ。僕は遅れているとずっと思っていた。
考え方もスムーズではなくいろいろ余分なことばかり考えていて、周りからスッと出された一言にあぁと言葉を呑む。
幼稚園から小学校は、本当に精神的にも世の中的にも成長が遅れていた。
周りの常識がわからなかった。
みんなが話している言葉がわからないと、じっと聴きながらどんなものかすばやく想像した。
だんだんそれを聴いてると、理解が早くなっていき話を合わせることが出来た。
家に帰ると必死でそのことを調べた。
やがて調べることが得意となった。
大抵そのことを調べると、そのことに関して教えてくれた人よりも詳しくなっていた。
安心した。
人をがっかりさせず会話を成立させることが出来た。
世の中と同調できた。


周りが音楽に目覚めた。
僕はアニメの歌しか知らなかった。それもテレビで流れていたもの。
その頃は、ランキングの歌番組が多かった為全部それを視聴しランキングに入った曲をメモした。
ビデオにとって何回も見て曲を覚えた。どんなくだらない曲でも覚えて次の日には歌えるようになった。
知らないバンドは、音楽雑誌やCDに書いてあるクレジットを読んでどんな人たちなのか調べた。
周りと会話を成立するために。
段々音楽が詳しい人に扱われるようになった。やばいと思った。
みんな僕にいろいろ聞いてくるようになった。
そのことについて知らないとみんながっかりした。「○○も知らないんだ。」がっかりさせるのが怖かった。
必死で調べた。
ニーズがわかってきた。こういう感じの曲が流行るとわかった。
周りが訊いてくることがどんなものか予想できるようになった。
ほとんどのことに関して対応できるようになったが、不意に知らないことが現れて僕にムチをたたいた。


僕の日常は、今でもそんな感じかもしれない。
ネットが広大になって情報がすぐ読み取れまたは、知ることが出来るようになった。
世界が広がった。知らないことの多さに恐ろしさを覚えた。
まだ僕は、こんなに物を知らない。
なんて駄目なんだろう。いつになったら一般的に喋れるようになるのだろう。
年をとればとるほど知らないことは増えていく。全然積み重なっていかないし、世界を覆うことは出来ない。
知っていることを塗りつぶしていく作業は、少しも進まなくスペースだけが増殖していく。
ネットは僕にナイフを突きつける。それに追われるように僕は本を読む。
世の中には、たくさんの言葉があり、絵があり、音楽があり、映画があり、物語があり、詩があり、思想がある。
そしてそれに関わるたくさん人たちを巻き込みつつ、増殖を繰り返していく。
それは1方向に増えていくのでは無く、周りに干渉しながら予想も出来ない方向にマルチに増えていくため、一つの物事を突き進めて行くと、一つの知識では表すことが出来なくそれに関わる全ての事を理解しなければ本当のことにたどり着けないのだ。
その動きは、無限のループ。永遠に終わりが無い。
進んでいくループ。
止まらないループ。


いろいろな事を切り捨ててせめてこれだけでも!と世界中の音楽を聴きたいと考えていたが、さすがに無理。(いくら常識が無い僕でもそれを理解することは出来るよ)
じゃあ、主観的に好きと感じる曲やジャンルだけでも思ったが、知れば知るほど自分の手ですくい取りきれないとわかった。
じゃあ、一つのジャンルだけでもと思ったが、それでも世界のアチコチから生まれる音楽や過去の音源達の量に打ちひしがれた。
僕は途方に暮れていながら、底の無い杓子で水をすくい取るような無力感を感じながら、立ち止まることも出来ずにジッと耳をすませている。