小沢健二「ひふみよ」ツアー@中京大学オーロラホール 叙

しっとりと麝香を歌い終えると、これまで何回か朗読のときに演奏された音楽が流れ、リズムに合わせ真城めぐみが「タタタン」と手拍子を煽ったあと朗読が始まる。
「日本の友人は「日本の笑いは外人にはわからない」と言う。僕は「笑いってどこでもそうなんじゃないの?」って答える。笑いは「自分達にしかわからないだろうなぁ」というものほどに声が大きくなる。よくアメリカのお笑いは大味だと言われている。アメリカにはスタンダップコメディというものがある。どれも黒人とかラテン系とかアジア系とかユダヤ系とかその系統の人にしかわかりにくい微妙なジョークでできている。そして「あぁ、これって自分達にしかわからないなぁ」という所で、皆がどっと笑う。
おそらくアメリカのお笑いは大味だと言う人は、ハリウッド映画のコメディのことを言っているのだと思う。ハリウッドのお笑いは全世界をマーケットとしているため、一部の人が大笑いするようなものでは売り物にならない。だからどうしても大味なものとなってしまう。他の人にはわからないような事で笑うのは、わからない人を排除しているような感じがする。しかし一方でわかる人たちの連帯感が産まれる。誰にでもわかるような笑いばかりだったら、世の中はつまらない。僕らは共同体を作って生きていて、その中でしか伝わらないことは確かにある。それが伝わる感覚をとても嬉しく思う。だからどこの民族も共同体も「俺達の笑いは微妙だなぁ。特別だなぁ。他の人にはわからないだろうなぁ」って思っている。他の人にはわからないからこそ大声で笑える。音楽にもそういうところがある。そういう「うわぁ、俺わかるなぁ。なんでわかっちゃうんだろう。」という曲を書くことに挑戦しました。にんまりしていただけたら嬉しいです。にんまり。」

朗読を終えた小沢健二が手を振って音楽を止める。
まるで日本の民謡のように「あひ、あふ、あひふみよぉ」というカウントと共に、盆踊りのような音楽が演奏される。「はぁ〜」「よぉ」「あ、よいしょ」なんて合いの手と共に新曲が始まった。盆踊りのような音楽をやったという噂を聞いていましたが、やっぱりびっくりしました。けど日本人なら、一回手を打つごとに両手を揉むようにおこなう手拍子は、生活と共に身についているものです。「うわぁ、わかるなぁ」とは思わなかったけど、「やっぱり僕は日本人だなぁ」って認識しました。会場をちょっと置いてきぼりにしながら曲を終えると、疎らな拍手が起こる、大部分の人がこの状況を上手く受け止められてない気がする。「あぁ、これが伝わらない人を排除している感じって事か!」と思っていると、「はぁ〜もう一回!」と演奏が始まる。2回目の時は、初回より大分人がついてきた感じ。ちょっと話は変わりますが、こうやって合の手を文字で表すとき、「はぁー」ではなくて「はぁ〜」という波線じゃないとこの言葉の感覚を表すことが出来ないなぁ。なんか声を張り上げるのではなく、やわらかく緩衝材のように発声をするいわゆる「こぶしをまわす」感覚は「〜(波線)」だよね。その感覚が伝わることで、にんまりしていただけたら嬉しいです。にんまり。
一部ポカンと置いてけぼりをくった会場に小沢健二が話しかける。
「えっと、今の曲はシッカショ節という曲で、シッカショというのは片仮名でシッカショと書いて、節はかつお節の節。この夏、どまつりなどでパルコの前あたりで踊っていただけたらと。パルコの方は音源を用意をしてくれると。ど祭り関係者の方がいたらパルコの方に、パルコの方は僕らに。この夏「シッカショ節」をよろしく」と話し、会場に「どまつり」を知っている一部の人つまり地元の人にしかわからない笑いが起きる。
そして「さよならなんて云えないよ(美しさ)」が演奏される。
この日演奏される曲は、すべて思い入れがあって楽しみしていた曲ばかり。
どれが聞きたいなんてわからないくらい全てが聴きたい曲ばかりのなかで、ライブ会場で強く聴きたいと思っていた曲。
一回目の“オッケーよ”を会場全体で歌ったあと、メンバー紹介へ。
ピアノの中西康晴、ハモンドオルガン沖祐市スカパラホーンズより北原、NARGO、GAMOU、ギターの小暮晋也、ベースの中村キタロー、バックコーラスの真城めぐみ、ドラムの白根。CDの後ろのほうを見れば、名前が載っている人たちばかりだ。いつも小沢の後ろでドラムを叩いていたスカパラの青木さんの死による不在は悲しいけど、こうやってLIFE期のメンバーが一同に会してツアーをまわるという姿は、ファンにとって感慨深いものがある。
そして曲が途絶えることなく「ドアをノックするのは誰だ?(ボーイズ・ライフpt1:クリスマス・ストーリー)」へ。「マーク外す飛び込みで僕はサッと奪い去る」の部分で、体を横に揺らしながら「HEYHEYHEY」でこの曲を歌ったときに、オザケンがずらっと並んだマッチョマンと一緒に体を左右に振りながら踊っていた姿がフラッシュバックする。そして黒柳哲子に番組の中で「サッカー選手がマークを外すような動きということです」なんて歌詞を説明してたなぁなんてことを思い出した。