小沢健二「ひふみよ」ツアー@中京大学オーロラホール 結

「この線路を降りたら 全ての時間が魔法みたいに見えるか
 今そんなことばかり考えてる 慰めてしまわずに
 この線路を降りたら 虹をかけるような誰かが僕を待つのか
 今そんなことばかり考えてる 慰めてしまわずに」
ギターの弾き語りで「ある光」のサビが歌われだすと、声にならないため息みたいな歓声がまばらにあがる。小沢健二の活動休止前の心情を表現した「ある光」は、ファンにとっても特別な思い入れがある。最後のシングルとなった「春にして君を想う」にノークレジットで収録されていたこの曲。歌詞を読めば読むほど、当時の小沢健二からの旅立ちと別れのメッセージとしか思えない曲を、サビだけ歌うということに今後の活動への可能性を感じる。
「時間軸をまげて」と曲紹介をした後、タムがリズムを刻み3曲目の新曲が演奏される。すごく美しく寂しげなメロディとトランペットが印象的な演奏と「ありがとうという言葉で 失われし時を感じ(うろ覚え)」という歌詞。初めて聴く新曲(当たり前だけど・・・)を聴きながら、「オザケンまだ、こんな曲が書けるんだ」と本当に嬉しくなった。あまりにも若くて眩しすぎたあの頃の小沢健二の亡霊を追憶のように見ているわけじゃないんだって心から想った。想いがあまりにも頭の中をグルグルと巡り過ぎて、歌詞をしっかり聴くのを忘れてしまった。曲が終わり拍手と共に、「ラブリー」のイントロが流れだす。1時間前にお預けをくらった待望のこの曲に、手拍子が巻き起こり会場全体が揺れたようになる。
「それで感じたかった僕らを待つ」「完璧な絵に似た」と変更された歌詞。
「強く僕は感じまくるのさ 他の誰かじゃまるで駄目なのさ
 夜が深く長い時を超え OH BABY LOVELY LOVELY WAY 息をきらす」
と元のままの歌詞の部分。
恋人への甘いラブソングが、13年間待ち続けていた僕達へのラブソングに変わっていた。濃密で甘くてお互いがこんなに優しく触れ合う。北原さんのトロンボーンが横を向く度、横に一歩踏み出して避けるスカパラホーンズにクスクス笑いながら歌う。ふわっと暖かな愛情が観客やオザケンの中に満ち溢れていたと思う。同じ音楽を聴いて、同じ場所で感じあった時間を「完璧な絵に似た」と一緒に歌う。ライブの間に何度も何度も訪れたそんな気持ちが、すごく心地が良かった。
そして再度「流星ビバップ」が演奏される。観客へ一緒に歌うようにあおる。会場にいる観客へ歌を受け渡したあと小沢健二が何度もお辞儀をしながらオルガンとピアノを残しバックメンバーと共にステージから捌けていく。鳴り止まないアンコールを求める拍手が大きな音をたてている。放心状態の僕は、いろんな思いが混ざり合い、混沌とした感情に浸りながらそんな時間を過ごしていた。この瞬間が永遠に続くようにと心から祈っていた。しばらくすると小沢健二がステージに戻り「今日は本当にありがとう」とお辞儀をし、アンコール1曲目「いちょう並木のセレナーデ」が演奏される。これは僕の失恋ソングという個人的にすごく思い入れのある一曲。
「もし君がそばに居た 眠れない日々がまたくるのなら
弾ける心のブルース 一人ずっと考えてる
 She said "I'm ready for the blue(ブルーになる用意はできてるわ)"」
そして曲が終わり「感じたかった僕らを待つ曲を、もう一曲」と語りだしギターのカッティングが始まる。「愛し愛されて生きるのさ」だ。
これが最後の曲。僕は完璧な絵に似た時間の終わりを感じる。「こんな楽しい時間が終わって欲しくない」と心から思った。そんな気持ちが伝わり熱が入ったのか小沢健二も、曲中にあるセリフ部分を2回も語りだす。
「家族や友人達と 並木道を歩くように 曲がり角を曲がるように
 僕らは何処へ行くのだろうと 何度も口に出してみたり
 熱心に考え 深夜に恋人のことを思って
 誰かのために祈るような そんな気にもなるのか
 なんて考えたりするけど」
そして小沢健二が「You've got to get into the groove」というコーラス部分の歌詞を「われら時をゆく」と変更して歌いだす。僕らも呼応するように続いて「われら時をゆく」と歌いだす。このライブは、観客と一緒に歌う部分を多く取り入れていた。それは小沢健二が望んでいたことだと思う。お互いを感じあうために。音楽が甘く流れるこの場所で、そんな気持ちを共有できる「わかる人同士」が感じあうために。
ホーン、ドラムと次々に鳴り止み、最後に演奏は小沢健二がかき鳴らすギターだけになる。
「月が輝く夜空が待っている夕べさ
 突然ほんのちょっと誰かに会いたくなるのさ
 そんな言い訳を用意して 君の住む部屋へと急ぐ」
と歌い演奏が終わる。
拍手に包まれるなか、小沢健二がメンバー紹介をおこない何度もお辞儀をする。「こんな素晴らしいメンバーと一緒にツアーがまわれて、毎日ドキドキしてます。」と嬉しそうに話す。そして途中メンバー紹介をしくじられたスカパラの北原さんが再度紹介されて「またやろうねじゃ変か?これからもよろしく」とオザケンにメッセージを送る。最後の最後まで暖かさに満ち溢れたライブが「本当にありがとう。どまつりに是非」という言葉で締めくくられた。